インタビュー 暮らす人の声

キャビンアテンダントから農園主へ――土とともに紡ぐ、横浜での暮らしの魅力

東京都→ 横浜市戸塚区 (1996年移住) 門倉麻紀子さん(門倉農園)

#移住 #60代 #夫婦 #戸塚駅周辺エリア

北海道・旭川市生まれの門倉麻紀子さん(60代)は、約40年前、日本を代表する航空会社の国際線キャビンアテンダントでした。結婚を機に、嫁ぎ先の家業であるゴルフ場経営か農業かを継ぐことになった時、迷わず農業を選んだという門倉さんに、横浜での農業や暮らしについてお話を伺いました。

農園主の門倉麻紀子さん
戸塚区で農園を営む門倉麻紀子さん

都会だからこそ土に触れたい。そんなニーズに応える新しい農のあり方を模索

――航空会社のキャビンアテンダントとして世界中を飛び回っていらっしゃったんですね。そこから全く異なる農業の世界に入ることに戸惑いなどはありましたか。

私は北海道の旭川に生まれ、6歳まで住んでいたんです。その後、親の仕事の関係で小学校の時に札幌、東京へと引っ越しをしました。そのなかでも、旭川は生まれ育った土地なので、特別な思い出がありますね。

キャビンアテンダント時代の門倉さん
キャビンアテンダント時代の門倉さん

ラストフライト時の門倉さん
門倉さんラストフライトの日

旭川の家には庭があって、トマトを栽培したり、鶏を飼ったりして、母は家庭菜園をしていました。小さい頃から牧場に連れていってもらったり、近くの野山でキノコ採りやクリ拾いをするような環境の中で育ったので、のちにご縁があって農業をやるようになったとき、土に触れることには違和感もなく、とても懐かしく自然なことに感じました。

大学時代、友人たちと牧場で過ごす門倉さん
大学時代、友人たちと牧場での一枚(写真中央上)

農業を始めた40年前というのは、女性が農家を経営するということも珍しく、今の時代より保守的な部分があったようにも感じます。そういう点では戸惑いというか、少し苦労したと言えるかもしれません。土に触れるのは好きだったので、やってこられたのだと思います。

まだ地場野菜とか地産地消という概念が今ほど浸透していない時代でしたから、お客様と接するということもありませんでした。私は農業大学出身ではないですし、農業の知識があったわけでもありません。でも、「そういう自分にどんな農業ができるんだろう」と考えた時、お客様を楽しませるような、消費者目線に立った農業をしたい、という思いが生まれてきました。

近くは住宅街で大型のマンションなども多くあり、普段あまり触れる機会のない「土」に触れたい、という一定のニーズがあることは分かっていました。なので、もし自分がここで跡を継いで農業をやるなら、今までのやり方とは違う「体験農園」をやりたいと思い、少しずつ今のように形を変えていったんです。

体験農園に来ている園児たち
体験農園には園児たちも多く来る

体験農園、学校給食、直売所の3本の柱で農園を経営。給食を通じて子どもたちとの交流も

――門倉農園はかなり広いですが、どういった作物を作っているのでしょうか。

サトイモを収穫する門倉さん
サトイモを収穫する門倉さん

広さは約2ヘクタールあります。品種は果物と野菜を合わせて30種類くらいでしょうか。多品目少量栽培ですね。

1月から5月くらいまでがイチゴ、梅、ブルーベリー、イチジク、キウイ。それからミカンですね。野菜は、根菜だとサトイモ、サツマイモ、ジャガイモ、ダイコンなど。ブロッコリーやネギなども作っています。

「横浜みどりアップ計画」という横浜市のバックアップもあって、戸塚区に限らず横浜市の各区で、門倉農園のような体験農園を始める農家さんが増えてきたと感じます。横浜という都市にいながら、イチゴ狩りやブルーベリー狩りが楽しめる。わざわざ地方まで行かなくても横浜市内で収穫体験が気軽にできるというのは、とても良いことだと思います。

都市の住人だからこそ、緑や土といった自然に触れる機会を大事にしていただきたいです。来園された皆さんは、やはり農体験をとても喜んでくださり、記念写真を撮ったり、収穫した野菜の調理法などを聞かれたりしますね。ファミリーで来られる方が多いですが、最近は、保育園や学童保育などの団体もとても増えているんですよ。小さいときから農に触れることの大切さを感じていただけているのだと嬉しく思います。

こうした体験農園に加え、学校給食への提供、直売所での販売と、3つの柱で農園経営をしています。

収穫体験や学校給食では、近くの名瀬小学校がここ10年ほど取り組まれていて、子どもたちが門倉農園でブルーベリーの収穫を体験し、それを給食で提供するというようなことをしています。

給食用のブルーベリーを収獲する小学校の児童たち
給食用のブルーベリーを収獲する小学校の児童たち

また、横浜市立の栄養教論とSNSで情報交換をしています。例えば、今年は暑かったので「夏にサツマイモを提供するのが難しく、秋になりそう」だとか、野菜の生育状況を写真で送って「いまこんな状況ですよ」とか…。写真も一緒に送るので、それが学校にも掲示されて子どもたちが楽しみに見てくれているようです。給食を食べた子どもたちから心のこもったお手紙をいただくこともたくさんあります。

同じ戸塚区内で収穫された新鮮な旬の野菜を食べることは、食育の観点からも非常に意義深いと感じます。私自身もそうですが、子どもの頃に地元で採れた野菜や果物を味わった体験は、大人になっても心に残る良い思い出になるのではないでしょうか。そうした体験づくりに門倉農園が貢献できていると思うと、私たちとしても大きな喜びを感じます。

体育館にシートを広げ、門倉農園で収獲されたトウモロコシを剥く小学生
体育館にシートを広げ、門倉農園で収獲されたトウモロコシを剥く小学生

都会と自然が響き合う街・横浜で、多様な視点が描く農の可能性

――横浜で暮らして約40年ということですが、横浜の良さや魅力というのはどんなところにあると感じますか。

横浜というのは都会的な街でありながら、どこか、のどかな部分がありますよね。そののどかさが、私にはとても魅力的です。例えば、東戸塚駅という横浜駅にも近い場所にも、肥田牧場というファームがあって、牛を飼ってアイスクリームを作って売られています。大人になると、わざわざそうしたところに行かなくなるかもしれませんが、幸いなことに、横浜には子どもたちが生活しているそばに、命が生きていたり、美味しいアイスクリームを食べたりできる環境があります。こうした幼少期の思い出が、大人になった時に自分の子どもたちを連れていきたいと思う動機になる。そんな「循環」が繋がっていく環境を有しているのが横浜の魅力なんだと思います。

農業に話を戻すと、横浜市では女性の農業従事者が少しずつ増えていて、とても喜ばしい傾向だと感じています。従来、農業は男性主体の分野だと思われがちですが、そこに女性の視点が入ってくることで、新たな可能性が広がるのではないでしょうか。農業に携わる女性の中には、母親や消費者としての経験を持つ方も多く、その視点から農作物に触れることで、「もっと小ぶりなら食べやすいな」、「小ロットで販売してほしい」、「この作物にはこんなレシピが合いそう」といった具体的な気づきが生まれます。こうした視点やニーズの把握は、性別に関わらず多様な視点が集まることでより豊かになるものです。

来園者と会話する門倉さん
来園者とのコミュニケーションでニーズのヒントを得ることも

また、イチゴやブルーベリーなど、比較的軽作業で取り組める作物を選ぶことで、体力面で負担の少ない農業が可能となり、より多くの人が参入しやすくなります。性別関係なく農業にチャレンジができる環境が、農業全体のイメージアップにも繋がり、農の風景というものも今後ずいぶん変わっていくのではないかなと思います。

幸い横浜市では、女性を含む新規参入者をバックアップするさまざまな仕組みも整っているので、それも横浜の良さだと私は感じています。

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