野菜青果卸つま正の社長が聞く、ご飯がもっと美味しくなる横浜野菜の秘密

横浜市在住のおでかけ好き地元ライターが、とっておきの横浜の魅力を、地元民目線で紹介します。

横浜は都会のイメージが先行しますが、実は農地がすぐ身近にあり、横浜産の野菜をスーパーや直売所などで購入することができるので、新鮮な野菜で食卓を彩ることができます。

実は、横浜市の農業は、農地面積、農家戸数において神奈川県内1位を誇っています。野菜や果樹、畜産、花きなど多様ですが、なかでも野菜生産が最も多く、農業算出額で見ても野菜・いも類は全体の約65%を占めています。それにより新鮮な野菜を食べることができます。
毎日の食事に欠かせないキャベツやトマトなどの西洋野菜は横浜から広まったものが多いとも言われており横浜と野菜は歴史的にも関係性が深いようです。

今回は、地元産の野菜が身近な横浜で、二代に渡って青果卸を営んでおり、野菜のプロフェッショナルである株式会社つま正の代表取締役社長 小山正和さんにお話を伺ってきました。

「横浜の野菜はなぜおいしいか?」さまざまな角度から横浜の野菜の魅力を掘り下げました。

横浜の暮らしを支える「都市型農業」

横浜市民の胃袋を満たす「横浜中央卸売市場」(神奈川区)のすぐそばに、株式会社つま正の本社ビルがあります。
取材に訪れた時間は午前2時45分。朝というよりは夜中と言った方が正しいような時間でも、市場に向かう大通りでは荷下ろし、出荷を控えたトラックがすでに行き来していました。
夜の静寂に荷物を運ぶトラックやバイクのエンジン音が響く中、横浜市民の暮らしを支える青果卸会社は仕事を開始していました。

つま正本社前の画像
深夜にトラックが行き交う、つま正本社前

>都市のイメージで語られることが多い横浜ですが、意外にも身近に畑が多いんですね。つま正の自社農園も、実は横浜市内の住宅地の真ん中にあると聞きました。

小山正和さん(以下、小山)
「自社の農園周辺は、昔は田んぼや畑が広がっていた場所なので、その名残で住宅地の中に畑があります。
都市部で行われるのがいわゆる都市型農業ですが、地元で作ったものを地元で消費する「地産地消」を進めて、身近に新鮮な野菜が手に入るというメリットを横浜の皆さんに還元するためにも、都市と畑の調和は求められていると思っています」_

つま正ファームの画像
神奈川区にある自社農園「つま正ファーム」(画像提供:つま正)

>青果卸としての長い歴史の中で、横浜市の農家さんとどのように関わってきましたか。

(小山)
より横浜にマッチした、より価値のある野菜を、いかに農家さんと一緒に見つけていくか。また、その野菜を横浜市民の皆さんの暮らしに浸透させるために、どのように流通を一緒に作っていけるのか。こうした意識を持って農家さんと接して共有していきたいと思っています。

「つま正ファーム」で採れたじゃがいもの画像
「つま正ファーム」で採れたじゃがいも 画像提供:つま正)

(小山)
その成功例を挙げるとすれば、バターナッツかぼちゃですね。バターナッツかぼちゃは、三浦で作られることが多かったのですが、横浜でも参考に作り始めました。
市内に流通させるために、生産を始めた頃からいろんなところで情報発信して広報に力をいれています。

バターナッツかぼちゃの断面と、段ボール箱に入ったバターナッツの画像
地元神奈川産の「バターナッツ」は、バターのようなクリーミーでねっとりとした食感となめらかな舌触りが特徴。

横浜特産野菜の魅力とは

>次に横浜特産の野菜の中でおすすめを教えてください。

(小山)
横浜名物の野菜はいろいろありますが、冬場は小松菜は甘さがあっておいしいですね。個人的には根っこの部分まで食べられる点もおすすめです。横浜には中華街もあり、小松菜の需要が高いため生産量も多いです。実際に、横浜市の小松菜の生産量は全国1位※になったこともあります。
※平成18年 市町村別作物統計より

出荷前の横浜産の小松菜の画像
横浜中央卸売市場の青果卸棟 出荷前の横浜産の小松菜

>おいしい野菜を見分けるコツはありますか?

小山
おいしい野菜は間違いなく鮮度が良いです。ヘタの部分がしっかりしているものが良いと思います。例えば、小松菜だったら葉が肉厚で、みずみずしくピンと張っていて、茎も太いものが新鮮です。

>横浜は身近に畑があり、新鮮な野菜が手に入りやすい環境だと思います。その点についてどのように捉えていらっしゃいますか?

(小山)
地元のものを買えば、おいしい野菜が食べられます。なぜなら鮮度が高い野菜ほど、栄養価が高く味もおいしいからです。地元産の野菜は食卓に届くまでの輸送距離が短いため、必然的に鮮度が高くなります。鮮度の違いにより、栄養価や味が違ってくることに消費者の方に気づいていただけると、地元産の野菜が手に入りやすいことの良さがもっと伝わると思います。

横浜で栽培されたトマトの画像
横浜で栽培されたトマト
横浜中央卸売市場 青果卸棟を颯爽と歩く小山さんの画像
横浜中央卸売市場 青果卸棟を颯爽と歩く小山さん

>市場では、鮮度を保つための「コールドチェーン」という技術があるとお聞きしましたが、どのようなものですか。

(小山)
コールドチェーンは、鮮度の維持や品質の劣化を軽減するための物流システムです。横浜中央卸売市場でも一部はコールドチェーンを導入しています。

各地から入荷された野菜たちが段ボールで並ぶ市場内の画像
各地から入荷された野菜たちが段ボールで並ぶ市場内

>コールドチェーンのメリットは、どんな点ですか?

(小山)
遮蔽された冷蔵の空間で野菜の均一管理ができる点です。東京では築地から豊洲に市場が移動した際にコールドチェーンの整備により、青果物の商品特性にあわせて鮮度・品質を保持できるなど、野菜の管理体制が大きく向上したようです。
横浜の市場でも、この整備が徐々に進められています。

コールドチェーン)
コールドチェーンとは、食品や医薬品など温度管理が必要な製品を、生産から消費者に届くまで一貫して低温状態で保つ物流システム。製品の品質や安全性を維持し、鮮度を保つことが可能に。特に生鮮食品やワクチンなど、温度変化に敏感な製品の流通において重要な役割を果たす。

>身近に畑があり、流通システムでも鮮度を保っているということですね。新鮮な野菜は、身体にも良い影響がありそうですね。

(小山)
間違いなくあると思います。例えば、新鮮な野菜を料理する場合、必要以上に化学調味料を使わずに素材本来の味を楽しめます。

横浜市立大学との産学連携プロジェクトから生まれた手軽に野菜を取り入れられる「飲む野菜ファースト」という商品があるのですが、普段、なかなか摂取できない鮮度の高い野菜を使用して、無添加で作っています。横浜で生産量の多いキャベツや大根も原材料として使用しています。

つま正飲む野菜ファーストの商品写真
8種の野菜を南足柄の名水「金太郎の力水」でじっくり煮込んだ、コク旨煮出しスープ。「マイルド」「スーパーマイルド」「はちみつジンジャー」の3種類がある。(画像提供:つま正)

(小山)
ちなみに「飲む野菜ファースト」は、身近にある廃棄野菜の課題を見つめなおして取り組んだフードロス削減を意識した商品です。横浜は県内有数の野菜の産地なので、食べることと直結するフードロスへの取り組みも大事にしています。

>横浜野菜の普及の取り組みがあれば教えてください。

(小山)
横浜市内を中心に定期的に一般の方向けにマルシェを開催していて、その日の朝に仕入れた野菜を販売しています。
最近では、楽しみにして頂いている常連さんもいらっしゃり、「毎回、どんな野菜が買えるのか楽しみにしています。」と言っていただけるようになってきました。

「いいものいっぱいマルシェ」の様子の画像
「いいものいっぱいマルシェ」の様子、マルシェは横浜ベイクォーターや有隣堂などで開催されている(右画像提供:つま正)

>野菜に対する小山さんの思いと、今後の展望を教えてください。

(小山)
野菜の価値向上を目指したいです。それは、ただ単に高く売るということではなく、価値ある野菜をしっかり説明してお届けすることです。それにより野菜の価値を最大限に上げて、その価値に見合う価格であることを消費者の皆さんに理解していただく。
その結果、ただ野菜を買うのではなく、その価値を広く捉え、味わうことができる環境を作っていきたいです。価格だけを見て野菜の良し悪しを判断するのではなく、生産者が大切に育てた野菜の魅力をしっかりと伝え、納得して選んで頂ける環境を作りたいと考えています。

昨今は野菜が高騰していて、生産者が潤っているように思われがちですが、実は気候変動などの影響で、生産所得はむしろ下がっているのです。

入荷された野菜をチェックする横浜中央卸売市場前の小山さんの画像
AM3時 入荷された野菜をチェックする横浜中央卸売市場前の小山さん

(小山)
実際に、生産所得の減少などにより農業を継続できず、廃業を選択する農家さんが全国的に後を絶ちません。一方で、世界的な人口増加により、2050年には食糧危機に陥るといわれています。農家の減少は深刻な課題で、早急に対策を打っていかなければならないと思っています。

農業を持続していくためにも、なるべく消費地に近いところで生産維持をして、生産コストを下げることは重要です。
そのためには市民の皆様とともにその価値を共有し、農業を支え続けることが大切です。生産者と生活者が力を合わせ、持続可能な農業と豊かな食文化を未来へつなげていきたいと思います。

株式会社つま正の代表取締役社長 小山正和さんの画像

インタビューで分かった横浜の地産地消

都会のイメージが強い横浜市には、実は農地がたくさんあり、お買い物の際に少し意識すれば、地元で採れた野菜が手軽に手に入ります。

地元産の野菜は流通に時間がかからないので、鮮度の良い状態で手に入れられます。採れたての野菜は、みずみずしさと風味が際立ち、食卓をより豊かに彩ってくれます。さらに、栄養価も高く、健康的な食生活を支えてくれるという、良いことだらけです。
また、地元で育った野菜を味わうことは、生産者を支え、持続可能な農業を応援することにもつながります。
豊かな自然と都市の利便性が共存する横浜だからこそ、地産地消の恩恵を存分に受け毎日の暮らしの中で新鮮な野菜を楽しむことができるのですね。


基本情報
株式会社つま正
住所:横浜市神奈川区栄町88-1
U R L:https://tumamasa.co.jp

小山正和さん

株式会社つま正の代表取締役社長 小山正和さんの画像

株式会社つま正 代表取締役社長。築地市場の荷受会社で7年間勤務:生産者と顧客の間に立つことの重要性を学ぶ。2004年 株式会社つま正に入社、2021年 代表取締役社長に就任。調理師免許および野菜ソムリエの資格を持ち、生産者の思いを消費者に届け、野菜の価値を高めることに注力。また、レストランやホテルへの野菜の卸売を通じて、珍しい野菜の普及や家庭での消費拡大を目指す。地元の農家やホテルと連携し、野菜収穫体験やバーベキューイベントを企画するなど、地域の野菜の魅力を発信し、農家への支援や地域活性化にも取り組んでいる。生産者、消費者、販売者の「三方よし」を実現し、日本の食料自給率向上にも貢献すると期待されています。

横浜市の身近な農について移住サイト内でも紹介しています。
https://iju-sumu.city.yokohama.lg.jp/living/#li-sec05

この記事を編集した人

ペンネーム:ナオト (横浜在住歴:40年)
横浜の地域メディアやウェブコンテンツのライターとして活動中。趣味はドライブで、横浜市内のほとんどの道路はすべて頭に入っています。市内のいろんな場所へ出かけて、新しい道、新しい建物を見るのが好きです。小学生の娘と幼稚園の息子の子育て中です。

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