荻野アンナが歩く!横浜エリア探訪⑨~JR根岸線南部エリア ボランティアに支えられる充実のプレイパークから「はまぎん こども宇宙科学館」まで、歩いて、登って、楽しんで。

ボランティアに支えられる充実のプレイパークから「はまぎん こども宇宙科学館」まで、歩いて、登って、楽しんで。

港南台中央公園で岡野富茂子さんと待ち合わせした。「港南台生き生きプレイパーク代表」の名刺の、名前の下には「エスメラルダ」とある。
「お互いにニックネームで呼び合うんですよ」
エスメラルダは略して「エスメ」になってしまった。プレイパークでは大人も子どももない、強いていえば子どもが主役なのだ。

岡野富茂子さんと並ぶ荻野アンナさん
港南台中央公園で「港南台生き生きプレイパーク」代表のエスメラルダこと岡野富茂子さんと

歩きながらお話を伺っていると、セイタカアワダチソウの黄色が風に揺れていた。
「この前、乳幼児の親御さんたちとセイタカアワダチソウで草木染めをしました」
なんだか楽しそうだ。プレイパークは場所の名前ではなく、取組の名前だった。有志の市民がボランティアで運営している。公園の一部が火、水、木と第1・第3土日の10時から17時の間、プレイパークになる。その間なら、いつ来ても帰ってもいい。泥遊び、水遊び、焚き火と、どう遊ぶかは自分たちで決めてほしいので、禁止事項は最低限になっている。

横浜市のプレイパークは市内に27か所あるが、港南台のそれは今年で20周年となる。遊びに来ていた小学生が高校生になって学校帰りに寄ったり、結婚して赤ちゃんを見せに来たりするという。

「自分の責任で自由に遊ぶ」と書かれている案内板
プレイパークの案内板には「自分の責任で自由に遊ぶ」と書かれている

「港南台生き生きプレイパーク」の横断幕が見えてきた。中はかなりの広さの広場で、遊具もあるが、立派な砂場が目を引く。広場を取り巻く丘の竹林の一部もプレイパークになっている。一角から煙が上がっているのは、焚き火らしい。

公園に掲げられたプレイパークの横断幕
開催されている時間帯にはプレイパークの横断幕が掲げられる

火を扱う以上、親以外の大人もその場には必要だ。今日も有償スタッフの「プレイリ-ダー」がそれとなく見守っていた。横浜市全体で常勤9名、非常勤数名がおり、シフトを組んで様々なプレイパークに配置されている。

焚き火の横のベンチでは、数組の親子連れがお弁当を広げている。生のさつまいもが転がっている。銀紙に包んだそれは、焚き火の中で焼きいもになりつつある。木の枝に刺したマシュマロを、火にかざしている子もいる。

焚き火で焼きいもを焼く子どもたち
子どもたちが焚き火で焼きいもやマシュマロを焼いている

あいさつに答えてくれたのはユッコこと裕子さんと、モエちゃんこと萌子さんだった。裕子さんは子どもが幼稚園に入る前は週に2、3回来ていたが、今は週に1回程度だそう。
「ここに来ると誰かしらいるんです」
萌子さんは幼稚園のお兄ちゃんと2歳のつむちゃんのママだ。お兄ちゃんには園があるので、来られるのは週に1回だが、お兄ちゃんがいない午前中につむちゃんと来ることもあり、週に2、3回程度となる。
「火も使えるし、夏は水遊びができます」
斜面にブルーシートを敷いて、上から水を流し、子どもたちが滑る。手作りのウォータースライダーだ。砂場に水を引いて泥んこ遊びをすることもできる。

裕子さんと荻野アンナさん、萌子さんとつむちゃん
裕子さんと荻野アンナさん、萌子さんとつむちゃん

つむちゃんは一生懸命枝を火にくべている。燃料もプレイパーク内で調達したものだ。拾ったどんぐりを、食べられると教えてくれたのはプレイリーダーだ。裕子さんによると「甘くない栗」の味だったそう。

その日のプレイリーダーのノンさんが、バケツの水に火バサミでつまんだビー玉を投入した。
「何やってるんですか?」
「ビー玉を熱した後にジュッとやると……やってみますか?」

ビー玉を焚き火にくべる時点でドキドキした。待ち時間が長い。バケツに入れたビー玉を火バサミで取り上げようとするのだが、何度も取り落としてしまった。見かねたエスメさんが、手で取り出してくれた。急激な温度変化でヒビの入ったビー玉は、全体がキラキラになっている。「キラビー」というそうだ。かざしてキラキラを楽しんでいると、エスメさんが言った。

焚き火で作った美しいキラビー
焚き火で作った美しい「キラビー」

「プレイパークがあるから港南台に住みたいという人がいるんですよ」
普通なら一緒になるはずのない組み合わせも、ここなら可能だ。中学生と小学生と園児でドッジボール、というのは確かに他所では見られない。子どもたちのユートピアが実在している証のビー玉をバッグに忍ばせて、公園を後にした。

はまぎん こども宇宙科学館の外観
JR根岸線洋光台駅からほど近いはまぎん こども宇宙科学館

港南台から洋光台へ。宇宙船の形をしている、と聞いていたので、「はまぎん こども宇宙科学館」の威容(いよう)には驚かなかった。内部は昭和のSF映画のセットさながらだった。副館長の坂巻たみさんに話を伺った。

SF映画のセットのような館内の様子
まるでSF映画のセットのような館内の様子
副館長の坂巻たみさん
楽しんで科学に親しんでほしいと語る副館長の坂巻たみさん

開館は1985年、約40年の歴史がある。理科が嫌いだったり、興味を持っていない子どもたちにも宇宙や科学のおもしろさが伝わるように、館内には実際に体験しながら楽しめる展示がもりだくさん。例えば「宇宙トレーニング室」では、はしごを登ったり、寝転がって自転車を漕いだり、アスレチック同様に体を思い切り使ってもらう。

「AIやコンピューターの世界はリアルな体験に比べると情報量が少ないんです」と坂巻さん。
たとえば海なら磯の香りがし、苔の滑りを手で確かめることができる。自然の与える情報量にバーチャルは敵わない。架空の世界と現実の世界の違いを見極めるには、自分の体でつかみ取った知識が必要となる。五感を使った実体験が、こういった知識を育むことへとつながる。そのきっかけを、科学館で与えられたらと思っている。

具体的には、プラネタリウムでは30分の「ドラえもん」のプラネタリウム番組を上映する。その後に15分間、スタッフによる解説とともに臨場感あふれる宇宙を体験してもらう。アニメに興味を持って入ってきた子どもが、この体験によって、帰宅してから夜空を見上げれば、館の思惑は成功したことになる。

プラネタリウムの入口
プラネタリウムの入口

自慢のプラネタリウムは、世界で一番多く(少なくとも7億個)恒星を投影できるプラネタリウムとしてギネス世界記録に2023年の2月に登録された。本来の認定は前の年の11月のはずだったが、事実の証明に3か月かかったのである。やり方としては、プラネタリウムを撮った写真を解析して暗い星を探した。宇宙には「暗い星」のほうが多いのである。一番暗い星の明るさが何等級かわかると、全体で何個の星が映っているのか推測することができる。

プラネタリウムとは思えないほどリアルな星空
プラネタリウムとは思えないほどリアルな星空

「最終的には20.3等級の星まで見えていることを確認しました」
ちなみに普通目で見えるのは6等級までだという。
「プラネタリウムに目が慣れると、星明かりが感じられるようになってくるんです」
最初は暗いと思っていたのが、だんだん明るく見えてきて、目に映る星の数も増えてくる。こうして学習すると、1等星なら都会の夜空でも見分けることができるという。

実際のプラネタリウムの前に、「宇宙トレーニング室」に寄り、「月面ジャンプ」を体験させてもらった。透明な円筒形の中に、座席が設置されている。座ってスタートボタンを押し、準備が整ったところで床を蹴る。ビヨーン、と体が数メートル浮いた。月の重力は地球の約6分の1。一歩踏み出しただけで体が浮くのを体感できるようになっている。いい歳をして、ビヨーン、ビヨーン、が楽しくてやめられなかった。

「月面ジャンプ」を体験する荻野アンナさん
宇宙トレーニング室で「月面ジャンプ」を体験する荻野アンナさん

宇宙トレーニング室では親子連れが数組楽しんでいた。「ボールジャンプ」に夢中の男の子がいる。両親に話しかけてみた。平川勝利(かつとし)さんと恵美子さんは、今日が初めてで、東京都大田区から来たという。はまぎん こども宇宙科学館が未就学児向けの冊子に紹介されていたのに目を留めた。6歳の滉大(こうた)くんには難しい話はまだ無理だが、ここなら体を動かして体験できる、というので来てみた。お昼から数時間があっという間だった。滉大くんに聞いてみた。

荻野アンナさんと平川勝利さん、恵美子さんと滉大くん親子
初めて来館した平川勝利さん、恵美子さんと滉大くん

「ドラえもんは?」
「おもしろかった」
「プラネタリウムは?」
「きれいだった」

一家は最近山梨で満天の星を見た。滉大くんは流れ星を見損なったが、土星は天体望遠鏡で確認することができた。以来、星に興味を持っている。芽生え始めた好奇心が、今日は楽しく刺激されて、科学好きがまたひとり誕生しようとしている。

プラネタリムが始まる前の客席
プラネタリムが始まる前の客席

いよいよ世界一のプラネタリウムと対峙する。広大なドームの下のきつい傾斜に椅子が並んでいる。腰を落ち着けると照明が消えていく。最初は暗さの印象が強いが、しばらくすると無数の星が自己主張を始める。その明るさに、吸い込まれそうになる。宇宙の只中に浮遊している感じがある。

録音ではなく、生の声で解説が付く。横浜の夜空から、徐々に南下して、南十字星が見えてくる。やがて南極大陸へ。越えると星空が上下逆転する。地球を一周したところで明かりが戻った。
「浮遊感が半端ないですね」
傾斜型ドームならでは、だという。わずかな時間だが、宇宙旅行をしたことで、美しい星々に目が洗われて、世界が鮮やかに見える。今夜は久しぶりに夜空を見上げてみようと思った。

20.3等級の星まで見えているプラネタリムの様子
20.3等級の星まで見えているプラネタリムの様子

星の世界の後は、午後の光を浴びて里山を散策する。栄区鍛冶ケ谷にある「本郷ふじやま公園」の9ヘクタールという広さを、足で実感した。駐車場から竹林へ入り、しばらく登りが続く。富士塚を目印に右手へ折れる。程なく富士山がくっきりと浮かんで見えた。それからは下りで、古民家ゾーンに着く頃は息が上がっていた。

深い竹林の坂道
深い竹林の坂道を登る

立派な長屋門をくぐると、茅葺きの豪邸が現れる。昔の名主であった旧小岩井家である。待っていてくださったのは、本郷ふじやま公園運営委員会事務局長の田端邦光さんだ。縁側に座って話を伺った。横に干し柿が吊るしてある。

茅葺き屋根が美しい古民家
茅葺き屋根が美しい古民家
軒下に並ぶ干し柿
裏の山で獲れた干し柿が軒下に並ぶ

「どなたが作られたんですか?」
ボランティア会員が約130名いる中に、昔を懐かしんでこういうものを作る人が何人かいる。園内には農園もあり、主にさつまいもを作っている。
「子供たちを呼んでいも掘りをしたり、焼きいもを作ったりします」

古民家の縁側に腰かけている田端邦光さんと荻野アンナさん
古民家の縁側で田端邦光さんから話を伺う

いも掘りは秋だが、季節ごとにイベントがある。年末には餅つきをして正月に七草粥を振る舞う。ひな祭りとお花見の後には、「竹林整備」という名目でタケノコ掘りがある。掘ったタケノコを1、2本持ち帰れるとあって、100人の枠に300人が応募して、抽選になった。

小さな子供向けにはシャボン玉遊び、年配向けには落語と、様々な年齢の人が楽しめるように工夫している。

たくさんの子どもたちが参加するいも掘りの様子
たくさんの子どもたちが参加するいも掘り
子どもたちによる餅つきの様子
餅つきも毎年盛り上がる
美しくしつらえたひな祭りの様子
美しくしつらえたひな飾り

「できるだけ昔の行事を伝承しようとしています」
小岩井家は名主だけあって古文書がたくさん残っている。その「解読勉強会」なども行われているという。

長屋門と主屋は横浜市の指定有形文化財になっている。長屋門から見せてもらった。門の両側部分は、右手が納屋、左手が穀倉になっている。現在は千歯扱きなど昔の道具類が展示してある。

内側から見た長屋門
内側から見た長屋門
古い道具類が保存されている納屋
納屋には古い道具類が保存されている

「田舎でああいう道具を使っていた、と昔を懐かしむ人もいます」
主屋は1847年に建てられた。土間から見上げると立派な梁が縦横に走っている。壁に組み込まれた梁の1本はゆるいS字をしている。
「曲がっていると耐震性があるんです」

婉曲した梁が特徴的な主屋の内部
婉曲した梁が特徴的な主屋の内部

土間に面した板の間には囲炉裏が切ってある。家族のスペースだ。板の間から続く廊下は蔵に通じている。中には年代物の陶器や漆器、昭和の製麺機や黒電話が所狭しと置かれている。壁にかかった「アメリカ捕鯨船マンハッタン号警備状況図」(1845年)は本物だという。

蔵に飾られている「アメリカ捕鯨船マンハッタン号警備状況図」を見る荻野アンナさん
蔵には「アメリカ捕鯨船マンハッタン号警備状況図」が飾られている

座敷が6つある中の、奥が客間の上座敷、中座敷、下座敷である。紅殻の壁は裕福な家庭の印という説もある。下座敷の縁側部分が「式台」で、身分の高い人が駕籠(かご)で直接乗り付けられるようになっている。中座敷と仏間の間には「跳上げ戸」が付いている。金具を外すと板戸が降りてきて、部屋を仕切ることができる。普段は閉めておき、婚礼など客の多い時に開け放したらしい。

立派な囲炉裏が切ってある主家の様子
主家には立派な囲炉裏も切ってある

一周して土間に戻ってきた。改めてその広さに驚く。
「夜、作業をするため。あとは物を置くスペースですね」
調味料の保存をする味噌蔵も付いている。
昔の名主の暮らしに思いを馳せつつ表へ出た。干し柿の赤が、夕陽に輝いて見えた。

【基本情報】
港南台生き生きプレイパーク
住所:横浜市港南区港南台3-5 港南台中央公園 下の広場と竹林
URL: https://ikiiki-playpark.jimdofree.com

はまぎん こども宇宙科学館
住所:横浜市磯子区洋光台5丁目2-1
URL:https://www.yokohama-kagakukan.jp/

本郷ふじやま公園
住所:横浜市栄区中野町5
URL:https://hongofujiyama.jp/

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荻野アンナの笑顔の写真

ライター:荻野アンナ
1956年横浜市生まれ。慶應義塾大学文学部卒。83年より3年間、ソルボンヌ大学に留学、ラブレー研究で博士号取得。89年慶應義塾大学大学院博士課程修了。以後2022年まで同大で教鞭をとり、現在名誉教授。1991年「背負い水」で第105回芥川賞、2002年『ホラ吹きアンリの冒険』で第53回読売文学賞、08年『蟹と彼と私』で第19回伊藤整文学賞を受賞。そのほかの著書に『カシス川』『老婦人マリアンヌ鈴木の部屋』など。神奈川近代文学館館長。

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